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なんとかならないもんかね

日本版ホワイトカラー・イグゼンプションについて その2

しつこいようだが、引き続き厚労省提案の「時間規制の適用除外」制度について取り上げる。当局は記者レクで「これはホワイトカラー・イグゼンプションではない」と説明したが、毎日新聞では「それなら日本版イグゼンプションでどうだ」と書いている。で、それをいただいた。

この制度を、「自律的に長時間労働を働く」人がどうみているか知りたくて、あるルポ・ライターにたずねてみた。関心がないとくるか、賛同するか、どちらかだろうと思ったのだが、意外な回答がかえってきた。

(ラ)「これは許せない。自分は仕事が好きだから、労基法なんて気にしないで長時間労働をしちゃっているけど、これは許せない」
(私)「へぇ、なぜなの?あなたの働き方にあった制度だと思うけど?」
(ラ)「この制度を欲しがっている連中の、“さもしい根性”が許せない。我々の仕事に対するこだわりや、やりがいを求める意識につけこんで、労働者の「ニーズ」論なんぞを口に出して、内心は残業代をチャラにしようとか、時間管理の責任逃れをしようとか、そんなことばかり考えている根性が、気に食わない」

ということである。なるほど、そういう怒り方があるか、と思った。

というわけで、前回ブログに引き続き、厚生労働省のいう「自律的に働きたい労働者のための」時間規制の適用除外制度に反対する理由をあげてみることとしよう。

□第5の反対理由。「労働時間の長短ではなくその成果や能力などにより評価されることがふさわしい労働者」という定義をたてること自体が、現場の実態にそぐわない。労働者側委員が指摘していたことだけれど、実際には、所定労働時間の定めのもとで働いている労働者に対しても、成果・業績・能力評価による賃金制度は取り入れられており、けして労働時間の長短で評価を受けているわけではない。

 さらに、労基法上の時間規制を適用除外されている管理監督者であっても、所定労働時間で働く部下より早く来て、部下が帰った後に管理職としての仕事をこなして帰るというのが通常の姿であって、遅く来たり、早く帰ったり、今日はこないなんて働き方はできない。つまるところ、>所定労働時間を基本として働いているのだ(たいした収入でもないのに残業不払を不問にしてしまう問題性はとりあえずおいても)。
 研究開発部門だってそうだ。孤独な一匹狼みたいな研究者もいるだろうが、大半はチームで開発にあたっている。バラバラな時間で勝手に働くことはできず、所定内に近似したコアタイムが設定されることになる。企画系の仕事だって、管理監督者手前のリーダークラスが、部下の勤務時間とスレ違った働き方はできないだろう。

 結局、実務的にみればこの制度によって、労働者が時間管理の自由を手にすることはできないことがわかる。他方で、失うものは大きい。長時間労働をしても割増賃金が支払われなくなるし、過剰なタスクで健康を損なうようなことがあっても自己責任となり、会社は健康管理責任を逃れられる。実態に即してみれば、「使用者の責任逃れを許し、不当な搾取を強める制度」でしかない。これは、厚生労働省事務局の提案にかかげられている制度の目標(きれいごと)とは相反するものであるから、排斥されてしかるべき提案である。

第6の反対理由。研究会報告や厚生労働省事務局提案は、企画業務型裁量労働制を新制度を展望する前段の制度として位置づけているが、その認識事態が間違っている。
 「研究会報告」によれば、「現行の企画業務型裁量労働制は、そもそも、実際の労働時間の長短と賃金との関係を切り離すことにより、労働者に自律的な働き方を促すための制度として創設されたものであり、当然、その対象労働者には新しい自律的な労働時間制度の対象労働者となるべき者も相当数含まれていると考えられる」とする。
 しかし、企画業務型裁量労働制は、みなし労働時間を定めた裁量労働制であり、時間から切り離された制度ではない
 この点は、公益委員の渡辺教授も指摘しており、松井審議官に対し「時間と賃金とを切り離す事に裁量労働制の趣旨があるということ自体、納得のいかない、おかしな認識だ」と厳しく批判している(余談だが、批判をうけた松井審議官は、「それは私が言っているのではない。学者が研究会報告に書いているものを読んだまでだ」と逃げをうった。しかし、時間研を事務局らしからぬオーバー・プレゼンスな姿勢で居丈高に“仕切っていた”のは松井氏その人である。問題の件は彼自身の認識ではないか、と私は感じている)。
 とにかく、間違った制度認識を前提とした提案は取り下げられるべきである。
by tomzoy | 2006-04-14 16:23 | 働くこと・労働組合
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