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なんとかならないもんかね

自公両党は「長時間労働の是正」をいうなら裁量労働制の規制緩和はやめるべき

 公約には書かれていないが、自民・公明与党がまとめようとしている「働き方改革推進法案」には、「企画業務型裁量労働制の対象業務拡大」と「高度プロフェッショナル制度創設」といった労働時間法制の規制緩和が盛り込まれている。

ここでは、法「改正」がなされた場合の影響が、より大きいと言われる「裁量労働制」の拡大政策についてみておきたい。


裁量労働制は、あらかじめ一定時間を働いたものとみなし、実労働時間に基づく時間外労働の割増賃金支払いをしない制度である(労働基準法第38条の3および4に基づく制度)。

労働時間について裁量を与えるとはいえ、仕事の内容や期限、遂行方法の自己決定権は与えず、業務遂行の途中で追加の仕事が命じられることも少なくない(図1)。それでいて、実労働時間にもとづく割増賃金支払い義務もないので、当然のごとく、一般的な働き方よりも長時間労働となる傾向にある(図2)。


制度上は、当該業務をこなすための通常の労働時間より短い「みなし労働時間」を設定してはならないことになっているが、多くのケースで「みなし労働時間」は実際の労働時間よりも短めに設定されている。つまり、残業が発生しているわけだが、残業相当の手当は支払われていないケースが少なくない(厚労省調査では4割は手当なし)。


 政府や推進派の人々は、「ガチガチな労働時間管理から離れて、労働者自身が自由に時間を使って働ける」とか、「早く仕事が終わったら、早く帰ることができる」から長時間労働の是正になるというが、これは現実と異なる話ということだ。
実際には、この制度を導入する多くの使用者の狙いは、労働者に働き方の裁量を与えることではなく、「残業代を払わずに自己責任で長時間働かせること」におかれている。その証拠に、制度の要件に反して出退勤時間を指定したり、コアタイムを設けるなど、労働者の裁量にしばりをかける事業所が少なくない(図3)。


裁量労働制には、現在、専門業務型 (19業務)と企画業務型(本社の企画・立案、調査・分析業務)がある。導入事業所ごとに専門業務型は労使協定を、企画業務型は労使委員会を設置して要件となる事項を決議し、それぞれ所管の労働基準監督署に届ける必要がある。これら厳格な手続き規定があることから、制度はいまのところそれほどは普及しておらず、事業所規模1000人以上の企業でも専門業務型が10%、企画業務型が5%程度である。


働き方改革推進法案では、この企画業務型裁量労働制を、法人向け営業や本社以外の事業所の企画や管理業務にも広げ、手続きも簡素化しようとするもの(表)。連合執行部の意見をうけて、2015年時点の法案から修正をしているが、およそ働き過ぎの弊害をなくすような修正とはなっていない。


自民・公明与党は「長時間労働を是正する」、「過労死の悲劇を二度と起こさない」(安倍首相の国会での所信表明演説)というのなら、企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大や、導入手続きの緩和をする法案は、撤回するべきだ。


表 企画業務型裁量労働制の対象業務拡大(働き方改革推進法案要綱・第一の五)


〇新たに追加する対象業務

①「事業の運営に関する事項について繰り返し、企画、立案、調査及び分析を主として行うとともに、これらの成果を活用し、当該事業の運営に関する事項の実施状況の把握及び評価を行う業務、

②「法人である顧客の事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析を主として行うとともに、これらの成果を活用し、当該顧客に対して販売又は提供する商品又は役務を専ら当該顧客のために開発し、当該顧客に提案する業務」を追加する。

※①は定義があいまいで使用者の解釈の余地が広く、行政は指導監督などできないようにしてある。

②はよくある「課題解決型提案営業」との区別があいまいで、対象を広げやすい。今回「企画立案調査分析を主として行うとともに」として、普通の営業販売職との違いをつけたというが、司法判断でようやく決着をつけるような定義では、濫用を防ぐことはできない。



対象者の限定

対象は勤続3年以上とする(省令事項)。

※裁量など発揮しえない新卒労働者を裁量労働にしない点は当然のことだが、勤続3年を超えたとしても、仕事をコントロールしたり、人を採用する権限は得られない。



〇導入の手続き要件

導入には「労使委員会」の5分の4以上の決議が必要。委員会は事業場単位でなく本社一括方式(要件緩和)。健康確保措置は、勤務間インターバル、上限規制、年休以外の有給休暇付与、健康診断のいずれかひとつ。行政への定期報告義務はなくす(要件緩和)。

※インターバルと上限規制と追加の有休休暇付与などがすべてセットであるならばともかく、ひとつ選択では、健康確保などできない。



〇使用者が始・終業時刻を指示してはいけないことを今回、ようやく法律に明記する。

※罰則はつけていない。守らなくても、制度が無効とまではされず、守られない可能性が高い。


法案要綱より。下線は2015年法案から修正されたところ


図1 裁量労働制でも、仕事の進行中に追加の仕事が命じられる。




資料:労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査・労働者調査」(20146月)


図2 裁量労働制に多い長時間労働



資料:図1に同じ



図3 裁量労働でも出退勤管理をする違法が蔓延



資料:図1に同じ



by tomzoy | 2017-10-19 19:43 | 社会・時事
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